『ねぇ、ヨコシマぁ…お腹すいた、何か食べにいこーよー』

『えー…またかよ？タマモ…おまえ確かこの前もそーやって…』

『いーじゃないの…こぉんな可愛い娘をエスコートできるのよ？』

『うわぁ〜たかる気満々だし…
あーもー、しゃーねーなぁ…今給料日前で金無ぇからたいしたモンは食えねーぞ！』

『やった♪だからヨコシマって好き〜♪』

『あ〜はいはい…解った解った…』







【語らい】







「…なーんて事、あったわねー」

「そーだったな〜。
…つーかオレってばもーこの頃からお前ん尻にしかれてたのね…情けねーなぁ…」

「極上の美少女のお尻の下よ？『本望だッ！』くらい言って欲しいわね♪」



しまりの無い顔した男の子に、しな垂れかかるは幼い少女…

それは、アルバムの中の一枚の写真。
たっくさんある思い出の中、特にお気に入りのひとつ…



「…おまえなぁ…自分で“美少女”とか言うか〜？」

「別にーじゃない…だってホントの事だもん♪」



見る人が見ればすぐにわかる…写真の中の2人の関係。
微笑む彼女と微苦笑の彼氏。
手綱を握るのは女の子で、男の子は彼女のとりこ…今とまったく変わってない。



「はぁ〜…ホンと、おまえそのずーずーしさは変わらんなぁ〜。
オレにゃー毎回奢らされて―――しかもよりによって懐寂しい時にだよ？―――苦笑いするしかなかったよーな記憶があるんだが…」

「もー！アンタちょっとうるさいわよ？いちいち文句つけるんじゃないの」



…そう、写真のふたりは私たち。
もう“男の子”じゃなくなった彼氏と、彼の奥さんになった私と…
仲良く寄り添いアルバムをめくる、そんなふたりのかつての姿。

まだまだお友達感覚で、じゃれあってた頃の思い出の一枚。



「あ〜…それにしても懐かしいなぁ…オレもおまえも…あん時ゃ若かった…」

「アンタね〜ナニしみじみと年寄りくさい事言ってんの。
それ撮ってからまだ5年と経ってないじゃない」

「いや…でもさぁ…なーんか今のお前みてるとさぁ…」

「な、なによ？」



彼の視線の先をたどれば、行き着く先は私のお腹。
大きく、大きくふくらんだお腹…



「いやぁ…なんかこー…もうあの時とは全然違うんだなぁって…」

「ぷッ…なぁにそれ？だから一気に老けちゃったなぁ…ってワケ？」

「いや、そーじゃない！そーじゃなくてだなぁ…何かこーもっと…
解るだろー？」

「ううん、全然わかんなーい♪」



それは嘘、ホントはちゃんとわかってる。

…嬉しくって、待ち遠しくって、誇らしくって、楽しみで…
でも、不安で不安で堪らなくって。
心配で心配でどうしょうも無くて。

きっと彼の心の中、こんな感じに違いない。



「だ、だからなぁ…だから…う、巧くいえないんだよ！ちくしょー！！」

「まったく、何をやってるんだか…もっとしゃきっとしなさいよしゃきっと。
アンタ『お父さん』になるんでしょ？
産まれる前からこんな調子じゃ、この子だって呆れちゃうよ？」



だって、顔には出さないけれど『お母さん』になる私も、そんな風に思ってるから。
でも、大丈夫。

だって、私は確信している。
何もかもきっとうまく行くって。



「う、うぅ…た、タマモが…タマモがいぢめるぅ…」

「いい歳こいて、なーにイジけてんのよ…大体ね〜アンタがそんな事したって可愛く何とも無いんだから…不気味なだけよ？」

「ひ、ひでー！」



交わす言葉はケンカ口調で…でも私たちの顔は喜色満面。
私も彼もにへにへと緩みまくった頬っぺたを、どうしても元には戻せなくって。



「はぁ…ホンと情けないお父さんだねぇ〜？」

「フンッ…ひどいおかーさんだなぁ…おまえはオレの味方だよな〜？」



生まれ来る新たな小さな命に、ふたり仲良く語りかける。
彼が私とまだ見ぬわが子に注ぐ眼差しはどこまでも優しく、私もそんな彼のことから眼を離す事ができなくて。

だから、何の不安も心配も要らない。

私は彼が、彼は私が、そして私たちふたりはこの子の事が…
何よりも何よりも大切で、誰よりも誰よりも大好きだから。

絶対に絶対に大丈夫。

この子は幸せにしてみせる。
皆でもっと幸せになる。



「ね、ね、このコってさ、男の子だと思う？女の子だと思う？」

「女の子！間違いないね！！」



だから、安心して生まれておいで。
…私たちの可愛い赤ちゃん…




−−−終わり




後書き
Ａ−Ｚさま、はっかい。さま、水無月様、このお話の投稿を承諾頂きまことに有難うございます。
このお話は、元々チャットで、両絵師様の画に水無月様がお話を…とゆー話があがった際、その場に居た自分も、『自分もその画を元に書いてみてもいいですか?』と言い出して書かせていただいたものです。
ちなみに、2人の見てる写真がＡ-Ｚさま、妊婦タマモがはっかい。さまの描かれたイラストが元になっております。

ご感想、ご指摘など頂ければ幸いです

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