「だ、だめだよ翠星石」
顔が赤くなりながらも双子の姉を抑える蒼星石。
「蒼星石……はーなーすーですぅ」
その妹を振り切って家へ飛び込もうとしているのは翠星石。
2人の現在地は桜田家の外。
いつものように鞄で訪れて、飛び込もうとしたが声が聞こえて踏みとどまったのだ。
双子の妹同様、顔を赤くしている翠星石だが蒼星石と原因が違うのも混ざっている。
蒼星石の赤さの原因は聞こえた会話による羞恥。
対して翠星石の赤さは羞恥に加え、怒りも混じっている。
そんな中、再び声が聞こえてくる。
「ジュン、そんなものをこっちに飛ばさないように気をつけるのだわ」
言葉だけ聞けば怒っているようだがその響は優しさを含んでいる。
「……そっちこそもっとうまくやれよな」
疲れているのか、ジュンの声に元気がない。
「うにゅー、うにゅー、ジュンのうにゅー」
残る1人、雛苺は相変わらずの調子―――いや、いつも以上に機嫌がよさそうであった。
「むきーーーー」
そんな会話を聞いてより機嫌が悪くなるのは翠星石。
そして、疲れた顔で姉を押さえる手の力を更に強くする蒼星石だった。
「雛苺、ずいぶん汚れたな。白いしべとべとだし……一度洗ってもらえよ」
はーい、と答えた後に聞こえるのは扉の開ける音。
どうやらジュンの指示通り洗いにいったらしい。
2人のいる場所から壁一枚を隔てた洗濯機前でうにゅうにゅ言ってるのが充分わかった。
「ジュン、そろそろいれてもいいのだわ」
そわそわした感じで告げられる真紅の声。
「まだ早いって、真紅。もっとかき回さないと」
ジュンの方は先の気だるさは残っているものの、余裕があるらしく落ち着いている。
でも…、とか続けられるやり取りに翠星石のお怒りはほぼ全開モード。
そして、とどめになったのが―――
「あーー、ちんくずるぃーー。ひなもジュンのうにゅーってするのーー」
服を脱ぎながら部屋に戻る雛苺。
上から脱いでいたらしく、上半身は裸であった。
ぶちっ、と何かが切れたような音が聞こえた気がする蒼星石。
それに気を取られて一瞬拘束が緩むと一気にそれを外した翠星石が駆け抜ける。
ガラスを割り、扉を弾き、絵を吹き飛ばし、高速で接近。
「この変体ちび人間が、ですぅ!」
足りない重さを速度で見事に補った一撃が認識外からジュンの体を貫いたのであった。
「で、いったいどういうことなんだ性悪人形」
怒りをぶつけたことで漸く周りが見え落ち着いた翠星石が辺りを見回すと行われていたのは大福作り。
何故かのりが買ってきたそれをひなが作りたいと言い出し作っていたのがこの結果であった。
「あぅ、そ、それはですねぇ……」
などと言いつつも理由など言えるはずのない翠星石。
喜びながら大福を食べている雛苺と、やり遂げた勘たっぷりで紅茶を飲む真紅が手伝ってくれるはずなどなく、
はぁ、と溜息をつきながら姉の壊した家を修復する蒼星石であった。
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